色々な方とお話をしていると、「元本保証で運用がしたい」と考える方がかなりの数いることに気付きます。
「元本を保全したままにしたい。でも資産は運用したい」という考えは分からないでもありません。
ですが、実際には「リスクをとらずにリターンを出す」というのは現実的にはありえないことです。
今回は、元本保証と言われている代表的な商品である「定期預金」「国債」「社債」に触れながら、それぞれの問題点を紐解いていきたいと思います。
元本保証と"言われる"代表的な金融商品
定期預金
定期預金は、銀行に現金を預けるだけです。
通常のいつでも出し入れできる普通預金とは異なり、一定期間解約することができない代わりに、少し金利が高く設定されており、運用をしているかのような気分は味わえます。
定期預金の問題点は、金利の低さにあります。
ネットを見渡していると、せっせと銀行ごとの定期預金利回りを比較しているサイトを見かけますが、定期預金の利回りなんてどこの銀行に預けても大して変わりません。
「最も利回りの低い実店舗銀行で0.001%、利回りの高いネットの銀行だと0.2%なので、200倍近い差があります!」などと買いているサイトも見かけますが、いずれにしても低いことには変わりありません。
仮に1,000万円を、最も利回りが高いと言われているネット銀行に預けたとしても、年の利益は2万円です。これを運用と呼んでいる方は一体何万年かけて資産を増やすつもりなのでしょうか。
普通の会社員であれば、月に1~2時間残業するかしないか程度の差でしょう。
そして、この低すぎる金利では、インフレに対応することができません。
仮に1年間で1%でも物価が上昇すると、0.1%程度の金利では決してついていくことができないのです。日本でインフレなどと言うと実感がわかないかもしれませんが、インフレは経済成長の指標であり、国としても年2%の目標を掲げています。
昔は1本100円で販売されていた缶ジュースが、気がつけば110円、120円となり10年20年かけて20%以上も物価は上昇しているのです。
一方で、定期預金の金利では1,000万円が10年で1,010万円程度なので1%しか増えません。つまり、昔は10万本買えていた缶ジュースも9.2万本しか買えなくなってしまうのです。
適正な経済成長にもついていけないような、超低金利の今の状態では、定期預金は運用としての意味をなしていないという問題があります。
国債
国債は、国が発行する債券です。
日本国債であれば日本という国が、米国債であればアメリカという国が保証していくれているものなので、いかにも元本は保全されそうです。
債券とは、買う側である投資家側から見ると、国にお金を貸すことになります。お金を貸し付けるわけですから、一定期間が経てば(満期になれば)満額返済されますし、追加で「金利」も得ることができます。
国であれば、簡単に潰れたり(破綻したり)しないので、安心して貸し付けることができます。
それでも、国によって信用度は異なり先進国の多くがAAAの評価を得ている一方、ギリシャ、メキシコ、アルゼンチンのようにBランクやCランクの国もあります。
ランクが低い国の方が金利は高くなる傾向がありますが、どんな国でも経済破綻する可能性はゼロではないので、100%確実な元本保証ではないことは留意しておいてください。
国債で運用するさいの問題点は、日本国債の場合は利回り、米国債の場合は為替でしょう。
現在、日本は過去に類を見ない「マイナス金利」という状態になっています。2019年1月における日本国債10年の利回りはマイナス0.005%です。
つまり国債を買って満期まで保有すると、確実に損をすることになります。先ほどの定期預金の比ではありませ。一個人にとっての運用先としては、論外中の論外です。
少し話しが逸れますが、「なんで損が確定するような商品がこの世に存在しているんだ、誰も買わないじゃないか」と思うかもしれません。
国債は、銀行などが数百億〜数戦億円単位で買っていきます。これは将来的な金融緩和によって、債券そのものの価格が上がるキャピタルゲインを狙ったものでもあります。
日本国債の魅力は非常に低いですが、銀行のように数千億円を運用する金融機関にとっては、債券市場という、株式市場の100倍近い規模のあるマーケットの外で勝負する場がないのです。
そこで、国は金利を低く(マイナス)に設定します。債券市場を魅力的でなくすることで、銀行が一般の企業に投資し、株式市場に資金が流れ、経済が活性化することを期待しているのです。
さて話を戻し、次に米国債について考えてみましょう。
米国債は日本国債よりも利回りが高く、2019年現在における10年ものの利回りは約2.6%となっています。この利回りであれば、決して悪くない数字のように思ます。
しかし、円で生活する私たちにとっては、米国債はドル建てで保有しないといけない資産になってしまうため、為替リスクが大きな問題となります。
仮に、ドル建てで着実に資産が増えたとしても、償還のタイミングで円高に振れていた場合、その利益は消し飛んでしまう可能性があります。
為替は、値動きを予想するのが難しいだけでなく、短期間に大きく変動する可能性もあります。
一時期、ドルが安かった2012年当時1ドルは78円近くまで下がりましたが、2019年現在は1ドル109円です。なんとわずか7年で40%近く変動しています。
年間に2~3%の利回りに対し、このドル円為替のボラティリティの大きさは、無視できません。
米国債を購入後、円高が進んでしまうようであれば、為替ロスが国債による利回りを遥かに超えてしまい、大きな損失になってしまいます。
しかも、2019年現在はやや円安気味の水準と見られており、この為替の問題はなかなか手強いものと考えるべきです。
社債
社債は、会社の債券です。
国債と同様、「〇〇年間で〇〇%」と満期と金利が設定されており、一企業にお金を貸しつけます。
社債の金利は会社によって異なり、そこそこ高い利回り(3,4%)に設定している場合もあります。ですが、倒産のリスクを背負っているのも事実であり、ここが最大の課題となってきます。
国が破綻するのと比較しても、一企業が倒産するリスクの方が高いのは明らかです。
企業の倒産リスクは、「格付けランク」として一般に公開されています。国債と同様に、信用度が高い(倒産するリスクが小さい)企業の方が、金利が低くなっているので、興味がある人はぜひ参考にしてみてください。
- 参考:格付一覧 | 日本格付研究所 - JCR https://www.jcr.co.jp/ratinglist/
日本にも、過去に個人向け社債を発行しながら倒産した企業がいくつも存在しました。
代表的な例でいうと、株式会社マイカルのケースなどは、大きな話題となりました。株式会社マイカルは、大阪に本社を置き、全国に展開していた大手スーパーマーケットチェーンですが、2001年に経営破綻しました。
破綻の直前、マイカルは、3,500億円にも及ぶ個人向け社債を発行していましたが、その借金とともに倒産していったのですね。つまり、3,500億円分の個人資産が還らぬものとなったのです。
何と言っても注目すべき点は、当時のマイカル社の格付けはBと決して悪くなかったという点です。大企業であり、格付けも高く、安心してこのマイカルの社債を買った多くの投資家が大損してしまったのです。
また、JALのケースも記憶に新しいものがあります。
JALの経営破綻に伴いJAL株式が一瞬で紙くずになったのは非常に話題になっていましたが、同社は個人向けにも社債も発行しており、こちらも株式同様紙くずとなっています。
大手企業であり、国からの支援を受けている企業であっても、ある日突然破綻してしまい、社債が償還されない(貸付が返済されない)ことは十分にありえます。
どれだけ格付けを注視して気をつけようとしても、完全に企業に内在するリスクを見抜くのは難しいという点には必ず留意しておかなければいけません。
投資におけるリスクとは
元本保証と言われているような"一見"安全そうな投資であっても、確実にリスクが潜んでいるということが理解頂けたかと思います。
投資においては、「とにかくリスクを下げよう」という姿勢はあまり本質的ではありません。
リスクというのは、下げるものではなくコントロールするものです。言い方を変えると、「良いリスクの取り方をする」ということを目指すのが大切です。
重要なのは、必要なリスクを適切にコントロールし、同程度のリスクの中でリターンを最大化することです。
堅実な運用と、逃げの運用は異なります。ぜひ様々な投資の手段を検討し、幅広い選択肢に目を向けてみてみてください。