投資を始めたばかりの人は、どのような聡明な人でも失敗をしてしまうものです。投資というのはそれほど難しく、奥の深いものなのです。
財務省、マッキンゼーを経てウェルスナビ(WealthNavi)を創業した柴山和久さんも、実際に投資をはじめた当初は失敗の連続だったと言います。彼のような素晴らしい経歴の方でも最初はうまくいかないものなのです。
今回は、実際のケースを参考に、投資初心者が陥りがちな典型的な失敗例を確認しておきましょう。
失敗しやすいパターンを把握しておけば、それだけ備えることができるようになるはずです。
目次
ありがちな4つの失敗パターン
失敗1:銀行の特別な待遇に舞い上がってしまう
柴山さんが最初に投資を始めたのは、ボストンから日本へと帰国するタイミングだったそうです。
もう日本戻るのということで、残ったお金を日本へ送金し口座を解約したいと、ボストンのとある銀行の支店に伝えたところ、営業員が急ににこやかになり、彼は銀行の2階の部屋へ案内されました。
そこは、資産運用についての説明をする特別な部屋だったそうです。
銀行というのは、通常の出入金の業務を行うフロアの他に、ある程度の資産がある方に資産運用をおすすめするための部屋が設置されています。
つまり、「営業をするための空間」ということです。
柴山さんはこの金融商品を売るための部屋に一度も入ったことがなかったそうで、そのラグジュアリーな空気感に感動したと言います。
さらに、おすすめされた投資信託もなかなか安心できそうだと判断した為、彼は結局口座に入っていた資産を、すべて投資信託として運用することにしました。
しかし、それからというもの投資信託の価格は下がり続け、毎年損が出るようになったそうです。
数年後に解約したそうですが、その頃には、「本人ですら、一体どのような運用を行う投資信託だったか覚えていない」というありさまだったとのこと。
銀行の雰囲気に流されて投資先を決めるというのは、初心者が陥りがちなな、最もあるあるな失敗だと思います。
特に、退職金や宝くじなどでまとまった入金があった際には、銀行は必ずと言ってよいほど、この好待遇な営業をしてきます。
手元に大きな資産があるとついつい舞い上がってしまうこともあるでしょう。
営業してくること自体は悪いことではありませんが、十分に注意し冷静な判断ができるように心がけましょう。
失敗2:過去のリターン(実績)が良い投資信託を選んでしまう
柴山さんは、この銀行の雰囲気にやられてしまった経験を活かし、次に、「過去のリターン実績の高い投資信託」を選んで投資を開始したそうです。
購入した投資信託は、「アメリカの伝統ある資産運用会社が運用する日本の小型株」をメインの投資先としていました。
小型株に興味があったわけではなく、この投資信託が一番過去の運用成績が良かったので、これに決めたそうです。
さて、こちらの投資信託ですが、結果から言うと1つ目の投資信託以上の損失(数十パーセント以上の損失)を出し、数年内に完全に資金を引き上げざるをえなくなってしまいました。
では、なぜこのような結果になってしまったのでしょうか。
詳しく投資信託の中をみてみると、日本における小型株の中でもこの投資信託は創業間も無いIT企業を中心にポートフォリオが組まれていたものだったようです。
過去のリターンが高かったのは、これらのうち一部のIT企業の株価が異常なほど高騰していただけだったのです。
つまり、投資している数百銘柄のうちいくつかが異常なほどの値上がりをみせ、全体として成長しているように見えていたのです。
簡単な話、この投資信託はテーマ型投信だったのです。
「権威ある米国の運用機関が投資する日本の小型株」と書かれていても、実態は「中小のIT株投資」だったということになります。
さて、「テーマ型投信」の危険性は、このサイトでも何度も指摘していますが、柴山さんはまさにテーマ型投信の一番危険なタイミングであるブームの真っ只中に掴まされてしまいました。
柴山さんの投資後、IT企業のブームは完全に過ぎ去り、この投資信託の投資しているすべての企業の株価が、軒並み下がっていったのです。
過去に良い成績を出しているからその投資信託がその後も上がり続ける、ということにはなりません。
その投信が、なぜ過去に良い結果を残せたのか、今後もその成功は続くのかということをしっかりと見極めなければ"自分が"儲かる(これから上がる)商品を見出すことはできないでしょう。
失敗3:銀行の名前で投資信託を選んでしまう
柴山さんがテーマ型投資信託と同時に投資したのは「全世界の資産に分散して投資する」というバランス型の投資信託でした。
このような全世界型と呼ばれるようなバランス型の投資信託には色々な種類がありますが、柴山さんは銀行の名前を冠しているものを選んだそうです。
やはり有名な銀行の名前が商品の中に入っていると安心感もありますし、同じような全世界型の商品であればネームバリューのあるものを選びたくなる気持ちもわかります。
この全世界型投資信託の中でも柴山さんが選択したのは債券中心のもので、年に数パーセントという、大きくはないものの最低限の利回りを続けていたと言います。
何が失敗だったのかと言うと、この投資信託が突然、運用を続けていけないという状況になり「早期償還」といって手元に現金が戻ってきてしまったことです。
現金が戻ってきただけなので、これだけで損失が出たわけではありませんが、機会損失や心理的なショック、また税金の面まで考えるとやはりネガティブな影響は無視できません。
このように投資信託が運用をやめてしまうということは、実はよくあることなのです。
例え、大手銀行の名前がついているような"一見"安心感のある投資信託でも、ある日突然ぱたりと運用をやめてしまうことはあります。
これは、投資信託が、金融機関にとっては1つのサービスに過ぎず、そこから利益が得られないようであれば事業として運営をしていくメリットがないためです。
投資信託における主なコストには、投資先の選定にともなう人的リソースの確保、システム等のアップデート、顧客の資産保全、顧客管理など様々あります。
これらのコストが発生しながら、大手であるほど顧客からとる手数料を下げることにこだわり、それによって結局採算が合わなくなってしまうことになってしまいます。
銀行名がついているかどうか、という視点で投資信託を選ぶというのは本質的ではないのです。
失敗4:オススメされた株を買ってしまう
投資信託での失敗に懲りた柴山さんは、財務省の出向でイギリスにいた頃に、株式に投資をします。
この株式投資は、自分が利用している銀行からきた案内に基づいて実践したそうです。
「あなたにおすすめの株はこちら」という案内メールが来て、それに従う形でとある個別銘柄に投資しました。そして、この株式投資も大きく失敗に終わります。
数年後、財務省をやめてビジネススクールに通っていた柴山さんは、授業のケーススタディとしてこの、かつて株式投資をしていた企業に再び出会ったそうです。
そこでの分析によれば、ストックオプションの価値の希薄化によって従業員のモチベーションが下がり、業績不振に陥ることでさらに従業員のモチベーションが下がる、、、という負のスパイラルに入っている企業の典型だということがわかりました。
当時の柴山さんは、そのようなことを何も知らずに投資をしていたのです。
例え大手の金融機関であっても、必ず正解を示してくれるとは限りません。
投資先を選ぶ際には、人の意見を参考にはしても、それを鵜呑みにすることなく最終的にはきちんと自分自身の目で確認し、判断しなければなりません。
オススメされたからといって迂闊に個別銘柄に投資してしまうというのは非常に危険なのです。
まとめ
財務省、マッキンゼーというキャリアを経てウェルスナビを起業した杉山さんですら、投資の素人だった頃には様々な失敗をしてきたことがお分かり頂けたかと思います。
銀行におすすめされた投資信託を買ってしまう。なんとなく過去のリターンの高い投資信託を買ってしまう。こういった安易な判断というのは、杉山さんに限らず皆さんにもあることなのではないでしょうか。
投資をする際には、必ず冷静な頭できちんと吟味し、自分自身の判断によって意思決定しなければいけません。しっかり勉強するか、本当に投資のプロと呼ばれるような人に任せてみるか、このどちらかが長期的に勝ち続ける方法だと言えるでしょう。