目次
次世代通信関連 世界株式戦略ファンド≪愛称「THE 5G」≫とは
ここ最近、数ある投資信託の中でもトップレベルに人気を集めている商品として「次世代通信関連 世界株式戦略ファンド」があります。
非常に人気があり、なんと設定からわずか8か月で1,800億円を超える資産が集まっています。下図の薄い青色の部分が純資産を表しています。
出典:次世代通信関連 世界株式戦略ファンド|三井住友トラスト・アセットマネジメント
http://www.smtam.jp/fund/detail/_id_387/
その伸びには目を見張るものがありますが、なぜこれほどに人気を博しているのでしょうか。本当に人気に値するだけの価値があるのでしょうか。プロの目線から紐解いていきたいと思います。
次世代通信関連 世界株式戦略ファンド≪愛称「THE 5G」≫の基本情報
出典:次世代通信関連 世界株式戦略ファンド 交付目論見書
http://www.smtam.jp/fund/pdf/_id_510138_type_k.pdf
- 商品名:次世代通信関連 世界株式戦略ファンド≪愛称「THE 5G」≫
- 主要投資対象:Next Generation Connectivity Fund JPY Unhedged Classを通じた次世代通信関連企業の株式(預託証書(DR)を含む)
- 商品分類:追加型/内外/株式
- 信託期間:2017年12月15日~2028年1月7日
- 購入時手数料:3.24%(税抜き3.0%)以内
- 信託財産留保額:なし
- 運用管理費用(信託報酬):純資産総額に対して年率1.1664%(税抜1.08%)
- 投資対象とする投資信託証券:純資産総額に対して年率0.66%程度(税抜0.66%程度)
- 実質的な負担:純資産総額に対して年率1.8264%程度(税抜1.74%程度)
- 為替ヘッジ:なし
- 委託会社:三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社
愛称の「5G」って何だろう?
さて、「次世代通信関連 世界株式戦略ファンド≪愛称「THE 5G」≫」はいったいどんなものに投資をしているファンドなのでしょうか。「次世代"通信"関連」とありますから何となくITやネットワーク関連なのかなぁという予想はつきます。
そして、よく見ると「THE 5G」という愛称までついています。愛称を付けるというのは最初は驚きましたが、投資信託を販売するためのアイディアとしては中々良いものではないでしょうか。販売者側が一般消費者に与えたいイメージを端的に伝える事が出来るからです。
では、愛称の「THE 5G」とはどういう意味でしょうか。ここでいう「5G」とは通信規格のことです(重力の事ではないですよ!)
携帯電話を使用している時にアンテナの所に「4G」と書いてあるのを見たことがある方は多いのではないでしょうか。そう、現在の規格は「4G」なのです。
そして、「5G」とは第5世代移動通信システムの事であり、これからやってくる未来の規格のことなのです。
そもそもこの「G」というのは・・・・という専門的な説明は、私もその分野に明るいわけではないですし省かせて頂いてNTTドコモのHPより拝借した文章を転載いたします。
2020年代の情報社会では、移動通信のトラヒック量は2010年と比較して1,000倍以上に増大すると予測されています。 5Gは、このような爆発的なトラヒックの増大に耐えうるネットワークシステムの大容量化を、できるだけ低コスト・省消費電力で実現することを目標としています。さらに、さまざまな未来のアプリケーションに応えるため、10Gbpsを超えるような超高速データレートやさらなる低遅延化、超多数の端末接続のサポートといった幅広い要求条件を考慮した研究開発を進めています。
要はこれから加速度的に増加していく情報のやり取りを実現するための次世代ネットワークを5Gが構築してくれるというものです。そして、「次世代通信関連 世界株式戦略ファンド」とはこういった「5G」を構築していく企業に投資をしていきますよということなのです。
次世代通信関連だとピンと来ない部分もありますが、「5G」と言われると、何となく
- これから必ず成長していくであろうネットワーク分野への投資で期待できる
- 5Gという現在の4Gの先を担うテクノロジーなので成長に期待できる
といったようなイメージを抱くことができます。
こういった未来への期待を一瞬で持たせる事が出来るのもこの「5G」という愛称を付けたからこそだと思うので、非常にうまいキャッチコピーだなと個人的には感心した次第です。
それで、本当に次世代通信関連企業の株は儲かるの?
結局このファンドに投資をして大きく儲かるの?投資家が気にするところはズバリその1点です。
「次世代通信関連 世界株式戦略ファンド」の構成銘柄や銘柄の属性などから丸裸にしていきたいと思います。さぁ、それではさっそくマンスリーレポートを見ていきましょう。
出典:次世代通信関連 世界株式戦略ファンド ≪愛称「THE 5G」≫マンスリーレポート
http://www.smtam.jp/fund/pdf/_id_510138_type_m.pdf
まず、資産の90%以上を株式に投資していることが分かります。そして、その内訳を見てみると、大型株式(時価総額200億米ドル以上)で41.76%、中型株式に(時価総額50億米ドル以上200億米ドル未満)に41.86%となっています。
50億米ドルと言うのは1ドル110円で考えると、時価総額5,500億円以上の企業となります。200億米ドル以上と言うのは、時価総額2兆2,000億円以上の企業となります。これらはいったいどれくらいの規模の企業なのでしょうか。
日本でいえば、例えば
- 日立(3兆5,313億円)
- 新日鉄住金(2兆,978億円)
- 電通(1兆4,146億円)
- ヤマダ電機(5,228億円)
といったような顔ぶれになります。 ※株価は2018年8月13日時点のもの
これくらいのとても大きな規模感の企業になってきます。誰もが知っている有名企業ですね。ここである疑問がわいてきます。
「あれ?ひょっとして通信関連の超大企業に投資しているだけじゃないの・・・?」
ここで、どういった銘柄に実際に投資しているか見てみましょう。
出典:次世代通信関連 世界株式戦略ファンド ≪愛称「THE 5G」≫マンスリーレポート
http://www.smtam.jp/fund/pdf/_id_510138_type_m.pdf
BtoBの企業も多いですし海外の会社が大半ですので、社名だけを見てもピンと来ないかもしれませんが、いずれも各国を代表する「超大企業」です。中国のアリババなんかはBtoCもやっていますし聞き馴染みがあるかもしれませんね。
いずれにせよ、この投信(次世代通信関連 世界株式戦略ファンド≪愛称「THE 5G」≫)は超大企業をメインに投資していることが分かります。これは「5G」という言葉から抱いた「将来に向けて急成長する」というイメージとはかけ離れているのではないでしょうか。
上場したばかりのこれからグングン成長していく企業をきちんとリサーチしているならともかく、すでに成長しきった各国の有名企業に投資をしているだけというのが現実なのです。
実際に基準価格の推移を見てみましょう。
出典:次世代通信関連 世界株式戦略ファンド ≪愛称「THE 5G」≫マンスリーレポート
http://www.smtam.jp/fund/pdf/_id_510138_type_m.pdf
赤い線が基準価格の推移ですが、ほぼ横ばいとなっている事が分かりますね。パッとしない運用成績に反して青色の基準価格が急増しているのが少し違和感を覚えますが、これは、投資信託を販売するにあたっての「営業戦略」が上手くいっているということを示しています。
実はこういった状況はいわゆる「テーマ型ファンド」と呼ばれる投資信託にはよくあることなのです。実績は伴っていなくても
「わかりやすい」
「何となく成長しそう」
「流行ってるし皆やっているから」
という理由でどんどん純資産総額だけは増えていくのです。
ですが、流行りものは、流行ってから買っては遅すぎます。例えば近年、仮想通貨が流行しましたがあなたのまわりに実際に仮想通貨で大儲けした人はいますでしょうか。
当然、「流行りもの」は、誰かが大儲けしたことで有名になるので、専門家でもない限り、あなたが知るころには”先駆者が儲け終わった後”なのです。つまり、「儲かった」という話を聞いてから慌てて参加しても、それはもう遅れているのです。
ですが、そのことをきちんと理解していないたくさんの素人投資家たちは、「あの人が儲かったなら、自分も儲かるかも」という淡い期待を抱いて、儲け話や流行りものに乗っかってしまい痛い目を見ることになります。
安易な流行りものには騙されないようにしましょう。
為替リスクには要注意
また、次世代通信関連 世界株式戦略ファンド≪愛称「THE 5G」≫において、私が最も気になっているリスクの一つに「為替リスク」があります。海外の資産に投資した場合、現地の通貨で利益をあげたとしても、円高が進むとその利益はあっという間に打ち消されてしまいます。
投資信託の購入を検討する際には、投資対象が国内か海外かは必ずチェックしなければいけない項目なのです。それでは、こちらのファンドの資産構成比をみてみましょう。
出典:次世代通信関連 世界株式戦略ファンド ≪愛称「THE 5G」≫マンスリーレポート
http://www.smtam.jp/fund/pdf/_id_510138_type_m.pdf
ご覧のように米国が53.85%、中国が10.73%、台湾が7.38%、イスラエルが6.01%、韓国が5.82%と上位5か国が海外となっており、比率は対純資産総額で8割を超えています。通貨も同様に米国ドル、台湾ドル、韓国ウォン、香港ドルで8割を超えています。
つまり、ファンドのほとんどが海外資産となっており非常に為替リスクが大きい構成となっているのです。
なぜ、為替リスクが怖いかというと、為替は投資家にとって「アンコントローラブル(制御できないもの)」だからです。
為替は国と国の間の通貨の需給の関係なので、投資家がどうこうできる問題ではありません。また、あくまで国同士の通貨の関係性によってレートが決まるため、適正価格の判断し辛く、どのくらい変化するのも読みづらいという特徴があります。
例えば株であれば、適正な株価を評価・判断することができます。例えば適正価格が1,000円の株式の株価が900円であれば、それは割安となるので、大きく値下がりする可能性を抑えることができます。
しかし、為替レートはそうはいきません。1ドルはいったい何円が適正でしょうか?
こういった話になると今までの最高値と最低値で考えればいいじゃないかという人もいますがそう簡単な話ではありません。
こちらを見てみて下さい。
出典:トルコリラ/円(TRYJPY)|為替レート・チャート|みんかぶFX
https://fx.minkabu.jp/pair/TRYJPY
これは2017年12月末頃の「トルコリラ」と「日本円」の為替チャートです。この時トルコリラは過去最安値となっていました。トルコリラは金利が高く、トルコリラ建ての債券が年利10%ほどつくということで非常に人気が高く、銀行や証券会社でも良く勧められていました。
私がお話しさせて頂いた方でも銀行でトルコリラ建ての債券を勧められたから退職金を使って1,000万円ほど購入したという方がいました。
私は「やめた方が良いのにな...」と思いながらも、大切な退職金を使ってなぜそんな大金をトルコリラの債券なんかに費やすのかと聞いた所
- 債券だから元本割れしない
- 利回り11%が確定している
という答えが返ってきました。
私に言わせれば残念ながら論外の理由ですね。
満期まで保有すればトルコリラ建てで元本割れしないのは確かでしょうが、為替レートの影響をもろに受けるため日本円に換算して考えると実質元本保証でも何でもありません。
利回りが11%で固定というのも問題です。為替レートによるリスクが大きいのにリターンが11%で固定されているというのは、リスクリターンが見合っていない投資と感じてしまいます。
その方は、トルコリラは政治不安などで底を打っているから、これ以上はまず下がらないだろう。銀行の営業マンにもそう案内されたと言っていました。
では、実際に為替レートはその後どうなったのでしょうか。最新(2018年8月時点)のレートを見てみましょう。
出典:トルコリラ/円(TRYJPY)|為替レート・チャート|みんかぶFX
https://fx.minkabu.jp/pair/TRYJPY
驚愕ですね。
過去最安値と言われた30円を下回りどんどん下がり続け、昨今の政治不安もありなんと15円台まで急落してしまいました。投資していた方のことを思うと、もう目も当てられない悲惨な状況です。
誤解しないで頂きたいのは、私がトルコリラが急落するだろうからやめた方が良いと思っていたわけではありません。為替がどちらに転ぶか分からない状況で、リターンがずっと11%で固定というのはリスクリターンが見合っていないから止めた方が良いと考えたのです。
もちろん逆の場合もあります。場合によってはトルコリラが急騰することもあったかもしれません。そうしたら非常に大きく利益が出ていた事でしょう。
しかし、どうなるかは分かりませんよね。為替リスクは注意して考える必要があるリスクなのです。
まとめ
次世代通信関連 世界株式戦略ファンド≪愛称「THE 5G」≫とは
- 各国の超大企業に投資をしている
- 通信関連と言うテーマはあるものの、きちんとした成長性を判断して選定しているとは考えづらい
- 事実、運用パフォーマンスも横ばい
- 資金が集まっているのは営業戦略が上手くいったから
- 5Gという言葉のイメージや流行りものに踊らされてはいけない
- リスクリターンが見合ってない
と、まとめることができます。
これらの特徴を見ても、決して投資魅力が高いものとは言いづらいでしょう。という訳で「5G」を愛している人以外にはお勧めしづらいという結論でした。
おすすめの投資先選定
5Gのように、海外に投資するものの場合、「為替リスク」が見過ごせないという問題があります。また、将来性に期待する投資の場合、その企業が本当に成長できるのか、業績に繋がるのか、株価に反映されるのか、と課題は山積です。
「5Gという新しい規格は絶対にくる!」と確信している人もいるかもしれませんが、それを担うのは本当に大企業でしょうか?
スマホが普及しSNSが爆発的な広がりを見せる以前から、TwitterやFacebook、LINEの登場を予期できた人がどれだけいるでしょう。
やはり、安定して運用したいのであれば、割安株に投資する「バリュー投資」の方が確実でしょう。既にある企業の資産価値による裏付けを重視し、ファンダメンタルズ分析を徹底した投資は、値崩れのリスクが小さく、着実な成果が期待できます。
また、日本国内に投資する(円建てで運用する)方が、為替リスクもなく安心です。国内市場にもまだまだ埋もれた優良企業は数多く存在します。
国内バリュー株投資をメイン戦略にしたファンドも含めて、以下のページでおすすめの投資先をいくつか紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。