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フィンテックに沸く投資市場
仮想通貨ブームは、ピークを超えましたが、フィンテックそのものに対する世の中の注目はまだまだ尽きません。今後の成長が見込まれるこの新しい産業に対する期待は高いですし、フィンテック関連企業の成長は著しいものがあります。
その、フィンテック関連企業に投資したいと考える人たちも多く、フィンテックに関するテーマ型の投資信託も次々と設定されています。
そこで、今回はそんな数あるフィンテック関連の投資信託の中から「SBI日本・アジアフィンテック株式ファンド」について掘り下げていきたいと思います。
今後の成長が見込まれるフィンテック業界ですが、このファンドに投資する価値はあるのでしょうか?様々な角度から順に紐解いていきます。
フィンテック(FinTechとは)
「フィンテック(FinTech)」とは、Finance(金融)とTechnology(技術)を掛け合わせた造語です。金融に関する最新の技術やサービス全般のことを指します。
仮想通貨や、それを裏で支える「ブロックチェーン技術」などが有名ですが、それだけではなく、モバイル決済や、クラウドでの家計管理、企業の経費・経理システムなどもこれに該当します。
世の中が便利になり、ますますキャッシュレス化が進む中で、最も今後の成長と発展が期待されている産業の一つです。
SBI日本・アジアフィンテック株式ファンドの投資価値を評価する
数あるフィンテック関連の投資信託中でも「SBI日本・アジアフィンテック株式ファンド」について掘り下げていきましょう。2017年の4月に設定されたばかりの新しいファンドですが、投資するだけの価値・魅力はあるのでしょうか?
投資戦略やコスト、これまでの運用の実績などから、その価値を紐解いていきたいと思います。
基本情報
- 商品名:SBI日本・アジアフィンテック株式ファンド
- 商品分類:追加型/内外/株式
- 投資対象地域:アジア、日本
- 信託期間:2017年4月27日〜2027年4月26日
- 信託金の限度額: 3,000億円
- 委託会社:SBI アセットマネジメント株式会社
参考:投資信託説明書(交付目論見書)|SBI日本・アジアフィンテック株式ファンド
http://www.sbiam.co.jp/fund/pdf/89311174_fintech_koufu_20180725.pdf
投資戦略、運用方針
SBI日本・アジアフィンテック株式ファンドの目的は、投資信託説明書(交付目論見書)によると以下のように書かれています。
主として、日本を含むアジアの金融商品取引所に上場しているフィンテック関連企業の株式に投資を行い、信託財産の中長期的な成長を目指して運用を行います。
その名の表す通り、日本を中心としたアジアのフィンテック企業に投資する投資信託です。
日本とアジアのフィンテック企業にしか投資しない上、日本以外の国の株式は、原則として信託財産の「純資産総額の30%を上限」としています。つまり、70%以上が日本のフィンテック企業に投資されることになります。
当ファンドは「為替ヘッジなし」となっていますが、全体の70%以上が円資産なので、為替の影響はそこまで大きくないかもしれません。
フィンテックに投資していることはわかりましたが、「期間」「リスク」「リターン」などについては説明されていませんでした。
長期間での運用向きなのか、どの程度のリターンが期待できるのかは不明です。運用の目標(ベンチマーク)は設定されていないのでしょうか。
実際にどのような企業に投資しているのか、次に投資銘柄を確認してみましょう。
組入銘柄(ポートフォリオ)
最新(2018年8月、2018年7月31日時点)の運用レポートによると、組み入れ銘柄の上位は以下のようになっています。
出典:SBI日本・アジアフィンテック株式ファンド 月次レポート(2018年7月31日基準)
http://www.sbiam.co.jp/fund/pdf/89311174_fintech_mr_1807.pdf
組み入れ銘柄の上位には、ソフトウェア開発やウェブ系の会社、データ活用企業などが名を連ねています。
しかし、過去の運用レポートを遡ってみると、組み入れ銘柄が大きく組み変わっていることがわかります。1年前(2017年8月)からの組み入れ銘柄の変遷を確認してみましょう。
出典:SBI日本・アジアフィンテック株式ファンド 月次レポートを元に、当サイトが作成
小さくなってしまいましたが、個別銘柄の良し悪しではなく、その銘柄の"変遷"を確認してみましょう。
2017年8月はインテリジェントウェイブやGMOペイメントゲートウェイ、ビリングシステムといった、電子商取引や証券会社の業務システム、電子決済など、フィンテックサービスを開発・提供している企業が中心でした。しかし、その後は、ベイカレント・コンサルティングや新日鉄住金ソリューションズ、野村総合研究所など、フィンテックサービスの提供を支援するような企業が上位に来ています。
さらに、2018年以降は、ブレインパッド、イーガーディアン、サイバーエージェントなど、ウェブやシステム系のサービスを提供しているものの、フィンテックとは間接的に関係していそうな企業に変わっています。現在の組入比率1位はビッグデータやAIに関するサービスを提供しているコムチェアです。
いずれの企業もフィンテックには関連しているかと思いますが、最も気になるのは、たった1年の間に大きく組み入れ銘柄が入れ替わっている点です。特に、わずか1ヶ月で大きくポートフォリオが変わってしまっている理由が気になります。
そもそもポートフォリオの上位に組み入れられるほどの評価を得ていた銘柄(株式)は、何をもって評価されていたのでしょうか?様々なデータや分析結果から優良銘柄を評価・選定しているはずなのに、簡単に銘柄が入れ替わってしまうのはなぜでしょうか?
また、組み入れ銘柄の「種類(業種)」が変わってしまっている点にも疑問を覚えます。フィンテックに関連しているものの、直接サービスを開発・提供している企業、AIやビッグデータ、ブロックチェーンなど間接的に関係している企業、コンサルやシンクタンクなど支援している企業では、業績の上がり方や成長の度合いは全く異なってくると想像できます。
「柔軟に市場に対応している」「様々な種類の銘柄を組み込むことでリスク回避をしている」と捉えることもできますが、投資に理念がなく、分析や銘柄の選定の根拠が乏しいのではないかと思ってしまいます。ひいては、ファンド自体の投資手腕に疑問を覚えます。
手数料(コスト)
多くの人が気にする手数料についても確認しましょう。このファンドの手数料(コスト)は以下の通りです。
- 購入時手数料:購入申込受付日の翌営業日の基準価額の3.24%(税抜き3.00%)以内
- 信託財産留保額:なし
- 運用管理費用(信託報酬):年1.76904%(税抜:年1.638%)
- その他費用:ファンドの監査費用、有価証券売買時にかかる売買委託手数料、信託事務の処理等に要する諸費用、開示書類等の作成費用等(有価証券届出書、目論見書、有価証券報告書、運用報告書等の作成・印刷費用等)
いずれの手数料も、高くもなく・安くもなく、投資信託としては一般的だと思われます。SBI日本・アジアフィンテック株式ファンドを考えるにあたっては、手数料はあまり気にしなくてよいかもしれません。
実績(パフォーマス)
最後に肝心の、運用実績(パフォーマンス)を確認しておきます。2018年8月時点の運用実績は以下の通りです。
出典:SBI日本・アジアフィンテック株式ファンド 月次レポート(2018年7月31日基準)
http://www.sbiam.co.jp/fund/pdf/89311174_fintech_mr_1807.pdf
ここ1年でのパフォーマンスは+24.02%、設定来(1年3ヶ月)で+38.53%と、好成績を修めているようにも見えますが、フィンテック系のテーマ型投資信託であれば、この程度のパフォーマンスはザラです。むしろ、グローバル系のフィンテックファンドである、「グローバル・フィンテック株式ファンド」などはこれを上回る運用実績です。
運用実績から、このファンドの良し悪しを判断するのは早計かもしれません。
まとめ
ここまで見てきた通り、SBI日本・アジアフィンテック株式ファンドの特徴は以下の通りです。
- 日本・アジアフィンテックに投資
- 資産の70%以上は円資産(日本株)のため、為替の影響は少ない
- 銘柄の選定やポートフォリオの変遷に疑問
- 手数料、実績は一般的
数あるフィンテック系のテーマ型投信の中で、特にこのファンドを優先する理由はなかったように思います。フィンテック産業は、今後も成長するとは思いますが、規制の強化も進むため、フィンテックで成長・生き残る企業は厳選されていくと予想されます。
その中で、どの企業に投資するのかという銘柄選定は、フィンテック投資のキモであり、そこに疑問が残る限りは、個人的には投資しかねます。それであれば、特に地域などを限定せず、フィンテック企業全てに満遍なく投資する投資信託の方がまだマシな気がします。
日本・アジアのフィンテックに思い入れのある方にとってのみ、おすすめできるファンドかもしれません。当サイトでは、これ以外にも様々なファンド(投資信託)の分析・評価をしています。その中から厳選したおすすめファンドもまとめているので興味のある人はぜひ参考にしてみてください。