「ヘッジファンド」と聞くと、一部の富裕層のみが利用できる資産運用のサービスというイメージがあるかもしれません。それとは対照的に、一般大衆向けの金融商品として「投資信託」を挙げる人もいます。
ですが、実際のところ「ヘッジファンド」と「投資信託」はどのように似ていて何が違うのでしょうか。
今回はヘッジファンドと投資信託の違いを整理していきます。
目次
ヘッジファンドと投資信託の6つの違い
運用の目標の違い
一番大きな違いは、ここでしょう。ヘッジファンドというのは絶対収益を追求します。
この絶対収益とは、「市場の動向に左右されずいかなる状況でも収益をあげる」という運用における目標設定のことです。
一方の投資信託の場合は、「インデックスファンド」や「アクティブファンド」など色々と種類はあるものの、特定のベンチマーク(基準とする指標)を目標にして、それに準ずる成果を追求します。
例えば、TOPIXをベンチマークにしている投資信託の場合、TOPIXが-5%になっているときは、-3%の運用成果でも、目標を十分に達成していることになります。
つまり、「そのベンチマークの動きによっては、減ってしまってもやむなし!」というのが投資信託なのです。
この点が、ヘッジファンドと投資信託の大きな違いです。
そもそも、ヘッジファンドというのは1949年にアルフレッド・ジョーンズという人間によって発明されたと言われており、彼は富裕層の資産を独自の手法で運用しました。
投資家の多くは、「手法は問わないので、とにかく金融の危機だろうが何だろうが乗り切れるような、優れた投資をお願いしたい」という思いで彼に資産を預け入れていたのです。
ジョーンズは、信用取引(ショートポジション)、成果報酬制度、運用者自身の出資、といったそれまでの常識を破る様々な仕組みを取り入れ、いかなる市況であっても高い収益をあげることを目指し、実際にそれを成し遂げます。
彼の取り組みが世に知られた瞬間に、数百のヘッジファンドが生まれたのです。そして、現在のヘッジファンドも、このアルフレッド・ジョーンズの考えたシステムを踏襲しています。
「絶対収益」という理念はヘッジファンドの根幹をなすものなのです。
投資する対象(ポイント)の違い
投資信託は、銘柄(商品)ごとに、投資対象となる国や地域、業界などが設定されており、市場への投資であったり、国への投資であったり、特定の分野への投資であったりします。つまり、投資家は「市場」に対する選球眼が求められます。
一方、絶対利益の追求こそがヘッジファンドの命題であり、原則として特定の領域に対する投資をするものではありません。投資の手法(分析手段や、投資先を検討する際に注意するポイントなど)こそ、ファンド毎に特色がありますが、あらゆる方法を駆使して「収益」を追求するのがヘッジファンドです。
つまり、ここで重要になるのは、運用に責任を持つファンドマネージャの能力や人物像、「人」そのものになります。
現在では世界一の投資家として名を馳せているウォーレンバフェットも、(今は上場していますが)もとはと言えばヘッジファンドの一種でした。
バフェット氏が率いたファンド、バークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway Inc.)の平均利回りは平均して年22%。バフェット氏はこの驚異的なパフォーマンスをを37年間に渡って継続しました。
バフェット氏のような優秀なファンドマネージャに巡り会い初期に投資することを決断できたなら、非常に高い利回りを享受することが出来るのです。
バフェット氏の投資戦略は彼の師でもあるベンジャミン・グレアムの提唱した「バリュー投資」に、独自の理論を付け加えたものです。そして、ファンドの規模に応じて戦略を変化させています。
出資者は、「バリュー投資だから良い」と思ったのではなく、バフェット氏が優秀だと思ったので彼に資産運用を任せる決断をしたのでしょう。ヘッジファンドへの投資にあたっては、このような「人に賭ける」勇気が必要です。
なお、37年前のバフェットに100万円を預け入れていたら、現在それは18億円(1800倍!!)にもなっています。複利での運用というのはここまで大きな成果をもたらすのです。
募集形態の違い
投資信託が「公募」であり、誰でも簡単に買えるのに対し、ヘッジファンドは「私募」、つまり、運用するファンドと直接契約しなければいけません。ヘッジファンドは、証券会社や銀行で買うことができません。
ヘッジファンドへ投資するには、ヘッジファンドに直接連絡し、面談をした上で契約を締結する必要があります。これは証券会社に口座さえ開けば、誰でも自由に売買できる投資信託との大きな違いです。
外資系の投資銀行のような一部の金融エリートが大企業から独立してヘッジファンドを設立することが多いので、一部の金融関係者の間では情報が出回っています。
しかし、証券会社で勧められるわけでもなく広告が出ているわけでもないので、なかなか一般人はヘッジファンドにアクセスすることができません。
皆さんも、日本の有名なヘッジファンドと言われてもパっと名前は出て来ないのではないでしょうか。
ヘッジファンドが私募という形態をとっているのは、そもそも顧客をむやみに増やす意図がないことに加え、公募化する(投資信託化する)と、運用の自由度が下がってしまうためです。
例えば「ショート(空売り)」といって株価が下がることに賭けることは出来なくなりますし、成果報酬というシステムも取り入れられません。また、ポートフォリオ(ファンド自体の組み入れ銘柄)の公開義務も発生します。
こういった不要な手続きを省き、無駄な制約に縛られることなく、純粋に利益を追求するために、ヘッジファンドは私募なのです。
投資金額の違い
投資信託が1,000円程度から投資可能なのに対し、ヘッジファンドは低くても500万円、高くて数千万円という最低投資金額を設定しています。
そして、資金の引き出しも投資信託ほど柔軟性はなく、短くても3ヶ月、長いと1~2年単位でしか出資も出金も受け付けていないといったところも少なくありません。
ある程度の金額を一気に預け、基本的には長期で投資する姿勢でどっしりと構えるのがヘッジファンドへの投資です。
報酬制度の違い
通常、投資信託は「購入時手数料」という購入時にかかる手数料と、「信託報酬」という毎年かかる手数料を設定しています。これらは、投資の成績に関係なく、投資金額に対して一定の料率で発生するものです。
一方のヘッジファンドは、これらに加えて「成果報酬」という報酬体系を取り入れています。これは、「運用で得た利益のから何%か報酬として受け取る」というものです。
一般的に、ヘッジファンドというのは私募でしか資金を集めない分、投資信託と比べて資金プールが小さくなります。なので、この成果報酬というのを主な収益源にするのです。
運用で成果が上がらないとお客さん(出資者)が減るのみならず報酬も一気に減ることになるので、ヘッジファンドにとって投資の利回りというのは非常に大事なものなのです。
従業員とファンドの関係性の違い
ヘッジファンドで働く社員は、ファンドマネージャも含めてそのほとんどがファンドの出資者です。そのため、利回りがマイナスになれば自分たちのお金も減ることになります。
自分が運用を担当し、他者に勧める(営業する)ものなのですから、自分自身もその価値を信じ・理解していれば出資に至るのは当然です。
ですが、ここが投資信託との大きな違いになります。
投資信託というのは、その販売に関わっている人(証券会社や銀行の営業員)も、それを作っている人(アセットマネジメント会社)も、そしてファンドマネージャでさえもその投資信託で自分自身のお金を運用していることはありません。
彼らは、会社員(組織の一員)であり、言われるがままに営業し、運用しているに過ぎないのです。
また、報酬体系も「成果報酬」を主軸にせず、信託報酬をベースにしているため、運用成果に対する責任もありません。端的に言えば、運用が上手くいこうとダメだろうと、運用という「業務(作業)」さえしていれば、彼らは給料を手にすることができます。
ファンド内部の人間が出資しているヘッジファンドと、いち会社員に過ぎない人間が運用や営業・販売をしている投資信託とでは、目線が全く異なります。
まとめ
ヘッジファンドと投資信託の違いを以下にまとめました。
【ヘッジファンド】 | 【投資信託】 | |
運用の目標 | 絶対収益 | 相対収益 |
何に投資するのか | 人(ファンドマネージャ) | 市場 |
募集形態 | 私募 | 公募 |
最低投資金額 | 500万円から数千万円程度 | 1,000円程度 |
手数料、報酬体系 | 購入時手数料 信託報酬 成果報酬 |
購入時手数料 信託報酬 他 |
関係者が実際に出資しているか | 関係者が自らファンドに投資している | 関係者は投資信託には投資していない |
このように、一見すると似ているようにもみえる両者は、実のところその本質は大きく異なります。資産運用を考える際には、きちんとその本質を見極めて、より価値あるものを選ぶようにしましょう。