資産運用の選択肢の一つとして「外貨」があります。
リスクヘッジの目的や、海外の金利の高さなどを求めて外貨建てで運用する人もいるようですが、外貨での運用にはリスクもありますし、そもそも一般的に言われているメリットが、対して重要ではないという問題点もあります。
ここでは、外貨で資産運用することについて、より詳しく考えていきたいと思います。
目次
外貨預金の一般的なメリット
金利が高い
外貨預金をする人の多くがこの「金利の高さ」を期待しています。
日本円で貯金していても、銀行から得られる金利は定期預金で年0.01%程度ですが、海外の銀行の場合アメリカでも年0.2~0.3%(日本の20~30倍)、東南アジアなどは5%以上、途上国の中には10%超えのところもあります。
仮に100万円を貯金して10年間放置していた場合、日本(年0.01%)と海外(年2%)を比較すると
- 日本(年0.01%):100万円→(10年後)100万1,000円
- 外貨(年2.00%):100万円→(10年後)121万8,994円
もの差になります。もちろん、どこの国の通貨にするかによって金利は変わってきますが、より金利が高い国に投資すれば、それだけ大きなリターンが期待できます。
円に対するリスクヘッジ
また「円」という資産に対するリスクヘッジの目的で、外貨で資産を保有する人もいるでしょう。
貯金だけでなく、株でも社債でも国債でも不動産でも、国内の投資は基本的に「円建て」になってしまします。
つまり、突然日本の信用が下がり、円の価値が暴落(円安)になった場合に、どんな投資の方法であっても、国際的には大きく損をする可能性があるのです。
仮に、資産の一部をがいかにしておけば、日本円の価値が下がったとしても、その損失を防ぐことができます。そのときに保有している外貨が相対的に割高(例えば円安ドル高)になれば利益が得られるかもしれません。
資産が全て「円」に依存し、円安で損をするリスクを回避するために外貨を持つ人もいます。
外貨のリスク - 為替 -
為替リスク
外貨で運用する際の最も大きなリスクは「為替リスク」です。
仮に、外貨建てで資産が増えていたとしても、円に戻したときの価値が大きく目減りしてはなんの意味もありません。
仮にドル建てで運用し、1ドル=100円の時に運用をスタートしたとしましょう。
しばらく経って、1ドル→1.1ドル(+10%)の成果が得られたとしても、その時に1ドル=100円→90円と円高になってしまっていては、実質的には100円→99円と損をしてしまっています。
外貨預金は、たしかに高い金利が魅力的ですが、アメリカドルなどで運用する場合年0.2~0.3%程度であり、為替変動のリスクに対して十分かというとなかなかそうとも言い切れません。
仮に金利が10%も20%もつくのであれば、為替リスクを考慮してもお釣りがくるかもしれませんが、そういった途上国の通貨にはもっと大きな「デフォルト」のリスクもあります。
そのことについては、次の章で詳しく解説していきましょう。
デフォルトのリスク
米ドルなどの金利(年0.2~0.3%)程度では、為替リスクの方が大きくなってしまうと解説しましたが、ではより金利の高い途上国に投資するのはどうでしょう?
例えば、ベトナムやカンボジア語では年6~7%、パキスタンやカザフスタンなどでは年10%以上の金利が期待できます。
これらの国の外貨を保有すれば大きな利益が期待できるようにも思えますが、この金利の高さは国としてのリスクの高さ(=通貨のリスクの高さ)を表しています。
つまり、「金利の高い国(通貨)=リスクの高い国(通貨)」なのです。
金利の高い国(通貨)は、カントリーリスクを多分に含む新興国が多く、金利の高さとリスクの大きさは密接に関係しているということは理解しておいた方がよいでしょう。
最近では、20%超えという驚異的な金利を誇っていたトルコリラが、2018年に大きく暴落するという出来事がありました。
どんなに高い金利を誇っていたとしても、国がデフォルト(経済破綻)してしまった場合、その国の通貨は紙切れ同然になってしまいます。
金利が高いということは、単純に「ハイリスク・ハイリターンになっている」だけなのです。
日本の財政リスクについて考える
外貨で運用するメリットに、金利だけでなく「円建てのリスクヘッジ」もありました。
つまり「日本円の為替リスク」をヘッジするために、外貨で運用しようという考え方です。
これには、日本という国の財政に対しての不安・懸念が背景にあります。
日本は「借金大国」と言われており、1,200兆円(国民一人あたり800万円)を超える負債があるため、経済破綻するリスクが高いと考える人もいるようですが、日本の財政の実態はそうではありません。
※平成30年度国の財務書類 (一般会計・特別会計) https://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2018/national/fy2018gassan.pdf による
確かに1,200兆円を超える負債がありますが、資産も670兆円以上あり、債務超過は570兆円ほどです。また、政府の関係会社まで含めると、300兆円ほどの純資産があり、実際の債務超過は300兆円程度との見方もあります。
この300兆円という債務超過は、他の先進国と比べて特段高い水準と言うこともなく、世の中が騒ぐほど危機的な財政状況ではありません。
そもそも、日本円は「安全な通貨」として世界から認知されており、経済危機などの際に、諸外国から積極的に買われることで円高になりやすいという傾向もあります。
このように「円」という通貨は、日本国内を見ても、世界経済における立ち位置から見ても簡単に崩れる(暴落)するようなものではありません。
「too big to fail(大き過ぎて潰せない)」という状況にあるのが、円のマーケットなのです。
このことを考えても「円資産のリスクヘッジのために外貨を持つ」ということが、大したメリットになり得ないことが理解できるかと思います。
外貨で運用する際の注意点
外貨で運用する人の中には「外貨建て預金」だけでなく、為替差益を狙う、いわゆる「FX」での運用を主軸にしている人たちもいます。
簡単に始められ、ゲーム感覚で運用できるとして手を出している人も多いようですが、FXでの運用の際には必ず心得ておいて欲しい注意点があります。
結論から言ってしまえば、FXは儲けるための方法としてはまったく適していないのです。そのことについて順を追って解説していきましょう。
ゼロサムゲームである
FX最大の問題点は「ゼロサムゲーム」であるという点です。
ゼロサムゲームとは、投資に参加している全ての人の利益と損失を合わせると、ちょうどプラスマイナスゼロになるということです。
つまり、為替であなたが勝っている時、全世界の誰かは必ず負けています。誰かの勝ち(利益)は誰かの負け(損失)であり、またその逆も然りです。
ゼロサムゲームの問題点は、「勝つ為には常に平均を上回る必要がある」ということです。
全体で、一つのテーブルで資産を奪い合っているのですから、最低でも真ん中よりは上の位置にいなければ利益を得ることはできません。当然、同じように運用するプレイヤーの中には、投資銀行や機関投資家など、数多くのプロたちも含まれていますし、仮に彼らが100億円を運用し1億円(1%)の利益を得る場合、その裏で100人の個人投資家が100万円の損を被ることになります。
もっと厳密なことを言えば、FXに参加するためには銀行や証券会社を通じる必要があるため、手数料を払っている分、それ以上の成果が確実に必要になります。
つまり、FXは「ゼロマイナスゲーム」ですらあるのです。
FXと比較される投資の方法にに「株式投資」がありますが、株は「プラスサムゲーム」です。
経済が成長し、世界の株式市場全体が少しずつ値上がりしていけば、極論全ての投資家が少しずつ利益を得ることもできるのが株式市場です。
この市場(マーケット)の仕組みを見ても、FXがいかに不利な状況で投資をせざるを得ないかが理解できるでしょう。
「運」の要素が払拭できない
もう一つ重要なポイントは「FXは運である」という点です。
金融に関する理解を深め、通貨価値の変動に関わる世界中のできごとをスピーディに入手できる体制を整えたとしても世界の全てを理解することはできないでしょう。
「国」という大きすぎるものに深く関わる「通貨」の変動を理解するのは、非常に難しいことです。
どこかの国の通貨の変動に絡む要因はその国内部の政治的・経済的な出来事のみならず、隣国の出した雇用率の統計の数値であったり、そのまた隣国の関税率変化の素案の発表であったり、国をかすめる台風の影響であったり、1企業の業績発表であったり、あまりにも多岐にわたります。
企業の業績に左右される株価を予測するのも困難なのに、「会社」よりも何十倍、何百倍も大きな「国」という存在を理解できると考える方が間違っています。
このように要素が複雑過ぎて手に負えない対象を扱う理論を「カオス理論」と言いますが、為替はカオス理論の代表とも言える存在です。
いろいろと考え、分析し、たまに勝ちを拾うこともあるでしょうが、それはあくまでも「たまたま」であり、運が良かったにすぎません。
「為替」という壮大すぎる市場において、一個人が本当に勝負できるのかを今一度考えてみてください。
まとめ
ネットでの取引などが普及し「グローバル化」などという安易な言葉に踊らされて、外貨での運用に興味を持つ人が増えてきていますが、ここで解説したように、外貨で運用することには、メリットに対して十分すぎるリスクや問題点があります。
やはり、安易な話に飛びついて、利益が得られるような簡単な話はそうありません。
長期で安定した資産運用をするためには、きちんと知識を身に付け、より着実な方法を正しく模索することです。当サイトでは様々な金融商品・運用方法について分析、解説しているので、ぜひ色々と参考にしてみて下しあ。