話題のトータスパートナーズとは

トータスパートナーズ(Tortoise Partners)というファンドをご存知でしょうか。数あるヘッジファンドの中でも、最近注目度が高く、いろいろなウワサを耳にするようになりました。

 

トータスパートナーズの最大の特徴は、ヘッジファンドでありながら、未上場(非公開)株式に投資する「PEファンド」であるという点にあります。

※PEファンドとは:Private Equity Fundのことであり、Private Equity=未公開、非上場の株式に投資し運用するファンドのこと

 

一般的なヘッジファンドの多くは、上場株式や債券での運用を中心に行なっていますが、PEファンドであるトータスパートナーズは、その「ファンド」という立場と資金力を活かして、上場していない中小企業に投資し、運用します。

 

特に、後継者不足に悩むような、中小企業を投資対象としているため、実際には株式を100%取得する「M&A」を実施していると考えるのが妥当でしょう。

 

つまり、トータスパートナーズの運用は、一般的にイメージする株式投資での運用とはまったく違った形(PEファンドであり、M&A投資)なのです。未公開株には株価もつきませんし、上場株式のように100株単位で売買するようなものでもありません。

トータスパートナーズのように非上場の企業に投資するPEファンドの運用は、その中身が一般的な株式や債券で運用するヘッジファンドとまったく異なるため、その内容が少々わかりにくいところがあります。

 

そこで、今回はトータスパートナーズのようなPEファンドのキモである「M&A」のプロセスに焦点を当てて解説していきたいと思います。

一般的な「M&A」のプロセスや、M&Aそのものにある課題や難しい点についての基本を理解し、PEファンドそのものへの理解を深めていきましょう。

 

M&Aのプロセス

ディーラーへの登録

M&Aをするには、買収の候補となる企業を見つけ出すところから始めなければなりません。

当然のことながら、未上場の会社の株は市場で取引されていないため、株主である経営者や創業者と直接交渉するための繋がりを作る必要があります。

 

そこで登場するのは、M&A仲介業者と呼ばれる、ディーラーとなる企業です。M&A仲介業者は、多方面から買収候補(売主)と買収先(買主)の情報を数多く集める、いわゆる「マッチング」業者です。

代表的なところは「日本M&Aセンター」や「M&Aキャピタルパートナーズ」などでしょうか。

 

M&A仲介業者(ディーラー)を活用するとかなりの仲介手数料を必要とするため、自分たちで直接買収先となる企業を見つけ出せるに越したことはありませんが、活用することで数多くの候補となる企業を紹介してもらえる可能性が高まります。

 

候補となる案件のピックアップ

多くのM&A候補案件を抱えるM&A仲介業者に接触し、自分たちに買収の意向があることを伝えます。

そして、買収規模(予算)や各種条件(経営状況や経営者の進退など)から適したものをいくつかピックアップし、候補となる買収先を絞り込んでいきます。

 

この段階では詳細な情報まではやりとりしませんが、大まかな情報から買収の可否を検討し、可能性がありそうであれば次のトップ面談に進むべくアポを調整します。

 

候補先とのトップ面談

売主(買収候補)、買主(ファンド)の双方が興味を持った段階で、一度トップ面談と呼ばれる代表者による面談が行われます。

ここで、会社売却に至る経緯や、買収の意図、売却後の経営方針などを大まかにすり合わせ、お互いに可能性があると判断できた場合、より詳細な情報のやりとりに進んでいきます。

 

一般的にはこの段階で「NDA(秘密保持契約)」を締結し、貸借対照表や損益計算書に相当する財務諸表や、借入の資料、会社の沿革から従業員の給与までより検討を進められる細かい情報が共有されます。

 

買収金額案の提示、独占交渉(着手金)

NDAを締結し、詳細な情報をやり取りした上で、細かく企業価値を算出し、買収価格を検討します。そして、諸条件と含めて、買収金額を売主に提案します。

一つの会社に対して複数の買手が候補となることもあるので、そうなった場合は売主の判断によって買手となる企業を決定します(全ての企業がNGとなることもありますし、買手が1社であっても売手が拒否すればこの時点で破談となります)。

 

晴れて、売主から買手として指名された場合、その会社との独占交渉権を獲得し、M&Aの締結に向けて最終局面に向け動いていきます。

 

また、一般的にはこの時点で仲介業者に仲介手数料の頭金を支払うことになります。

仮に、買収金額の見込みが2億円で手数料率が5%の場合、手数料は 2億円×5% = 1,000万円です。この1,000万円のうちの10% = 100万円の支払いをこの時点で求められます(手数料の割合は、各社異なります)。

 

デューデリジェンス

通称「デューデリ」と呼ばれる、デューデリジェンス(Due Diligence)とは、投資先の企業の価値やリスクを細かく調査・分析し、評価することです。

 

ここまでて提示されてきた一般的な財務情報等に限らず、目に見えないリスクや定性的な情報まで含めてありとあらゆることを徹底的に調べ上げていきます。

例えば、売掛金や借入の情報は書類の上からでも確認することができますが、売掛をしている取引先との関係性や、取引先の財務状況、売掛が回収できる見込みなどは、詳しく調べていかなければ正確にはわかりません。「売掛100万円」に実際に100万円の価値(見込み)があるのかは、返済される可能性によって変わってきます。

在庫や資産についても、実際に目で見て確認しなければ、状態はわかりませんし、在庫がきちんとはけて売上になるのかはよく考えなければいけません。

 

このように、細かく、細かく、徹底的に調べ上げて企業の評価するのがデューデリジェンスです。このデューデリをもって、最終的な株式の譲渡価格や条件を詰めていきます。

 

最終合意〜契約の締結 - M&Aの成約 -

デューデリを経て、最終的な株式譲渡の条件を確定し、売主(株主)・買主(ファンド)双方の最終合意と譲渡契約の締結に向かいます。

譲渡に際しては、主要株主(一般的には現社長)だけでなく、その他の株主(親族など)や従業員と調整することも珍しくありません。株主総会を開催し、合意を取ることもあります。

 

これらの調整を経て、最終的な譲渡契約の締結、すなわちM&Aの成約となります。ここまで完了して、仲介業者に手数料の満額を(先ほどの例で言えば、1,000万円のうち残りの900万円を)支払います。

 

M&Aの難しさ

このようにM&Aの締結までには長い道のりがあります。候補となる案件に触れるまでは1,2週間〜1ヶ月でも、契約の締結には数ヶ月かかることもあります。

もちろん、候補案件の中には買収に値しない(買手から見て魅力的でない)ものも数多くあります。デューデリまでいかずとも、トップ面談を数多くこなしながら、双方にとって優良な買収条件が整うまで探し続ける必要があります。

 

M&Aは売手、買手双方の合意があって初めて締結されるものであり、上場株式の売買のように簡単にはいかないのです。

 

結論 - PEファンドは実績を積むのが難しい -

このようにM&Aは、一つの案件が成約するまでに長い道のりがあり、簡単にいくつも取引が実施されるわけではありません。また、規模によっては十分な案件数が確保できないこともあります。

M&A市場には、数多くの案件があります(日本には非上場も含めると株式会社は200万社以上、後継者不足に悩む企業は120万社以上あります)が、小さいものでも1億〜3億円の規模があります。

 

つまり、運用総額1億円のファンドが未上場企業に投資しようと考えると、ほぼ全ての資産を1つの案件につぎ込む必要があります。

また、先述の通りM&Aには時間もコストも必要になるため、仮に売却したいと考えても簡単に売り捌くこともできません。

 

仮に上場株式であれば、「100万円ずつ100社の株を買って、よくなさそうだったら手放す」ということもできますが、未上場株(非公開株)の場合はそうはいきません。

買うだけでも大変なのに、一度買ったら売ることもなかなかできないため、自然と案件に対しても慎重にならざるを得ず、M&Aを成約させるのはそう簡単ではありません。

 

結果として、一般的なPEファンドでは運用の実績を積み上げるのに数年単位での期間が必要になります。

トータスパートナーズの運用規模はわかりませんが、創業からまだあまり長くないことを考えると、運用資金も数十億円規模ではなく、案件を精査している段階ではないかと推察できます。

ファンドの規模を拡大させて、今後実績を積み重ねていくことに期待しつつも、ある程度の期間が必要になるかもしれないことを考慮した方がよいかもしれません。

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