本サイトでは、「ヘッジファンド」についてたびたび言及しています。
ヘッジファンドは、情報が少なく、様々な憶測や噂が飛び交いがちですが、投資資金等のハードルをクリアすれば非常に良い資産運用の手段になり得ます。
ヘッジファンドには様々な種類があり、明確に定義するのも難しい(議論が分かれる)ところではありますが、共通するのは「絶対収益の追求」です。
つまり、いかなるマーケットでも(上げ相場はもちろん、下げ相場や恐慌時でも)収益を出すことを目指す姿勢を指します。
「ファンド」と聞くと、リスクを取った運用をしているというイメージを持っている人もいるかもしれませんが、アメリカではハーバード大学をはじめとした一流の組織がその基金をヘッジファンドで運用しており、また近年、日本でも年金基金や三菱東京UFJを始めとした大手の金融機関の運用にも組み込まれています。
そのことからもわかるように、長期で安定的に、まとまった資産を運用する方法として、ヘッジファンドは非常に優れているのです。
そんなヘッジファンドですが、大組織や大手金融機関だけでなく、個人投資家からの出資も募集しているところが増えてきています。
つまり、個人でもヘッジファンドを活用して資産運用することが可能になってきているのです。
有益な資産運用の手段として注目されているヘッジファンドですが、今回は、個人でヘッジファンド(一般的な株式を扱うヘッジファンド)への投資する際に知っておくべきリスクについてまとめました。
1,000万円を超えるようなまとまった資産があり、ヘッジファンドへの投資を考えている方に、是非参考にしていただければと思います。
目次
ヘッジファンドの6つのリスク
①価格変動に伴うリスク
まず大前提になりますが、ヘッジファンドへの投資は元本が保証されているものではありません。
「絶対収益の追求」と聞くと、絶対に収益が出るかのように勘違いし、利回りがプラスであることが保証されているように感じる方もいるかもしれませんが、もちろんヘッジファンドへの投資は、元本を下回る可能性があります。
ここでいう絶対利益の利益とは「絶対的な」利益に他なりません。
これは、投資信託のように「相対的な」利益しか追求しない金融商品との比較として用いられています。
証券会社や銀行経由で販売される多くの金融商品、つまり投資信託やラップ口座といったサービスは、常に、マーケット(世の中の一般的な動向)と似たような動きをするという前提があります。
つまり、リーマンショックのような世界恐慌によって、全世界の金融商品の価値が一気に下がるようなイベントの際には、これらで運用している場合には、ある程度の損失が余儀なくされます。
商品の売り手からすると、「世界的な暴落だから仕方ないですね。皆下がってます。」というスタンスなのです。
相対的な利益を追求するような金融商品の場合、相場が-10%, -20%の際に、その損失を-5%程度に抑えることを目標に運用されます。
一方のヘッジファンドは、市場の暴落時でもマイナスリターンを出さないようにすることを使命としています。
実際にリーマンショック時にもプラス運用で乗り切ったヘッジファンドというのはいくつもあり、絶対収益の追求とはマーケットが厳しい状況になってこそ価値を発揮するものなのです。
②レバレッジによるリスク
ヘッジファンドというと利益を追求してリスクの高い運用をしていると思っている人も少なくないようですが、そういったファンドの多くはレバレッジをかけた運用をしています。
レバレッジというのは「てこの力」を意味しており、実際に投資家から集めた金額以上の取引を実現します。
株式投資で運用しているヘッジファンドであれば、このレバレッジを用いた運用というのは、証券会社から資金を借りて株式を取得する、「信用取引」という形で実現します。
これにより、例えばファンドが投資家から10億円しか調達していなかったとしても、証券会社から20億円を借り入れることで、30億円分の運用をすることができるのです。
株式投資により年間で10%を出すことが出来るファンドであれば、
10億円を元手にすると1億円の利益が確定しますが、レバレッジ運用を用いて30億円を元手にすると3億円の利益が確定します。つまり、元の資金10億円の資金に対して30%の利回りとなるのです。
一見するとチャンスのようにも見えますが、これは損失が出た際にも同様に降りかかってくるリスクにもなり得ます。レバレッジをかけると、リターンも損失も大きくなってしまいます。
簡単に言うと、ハイリスクハイリターンなのです。
長期で安定的な運用をするのであれば、不必要なリスクは排除し、コツコツと着実に積み重ねていくことが一番です。
レバレッジをかけた運用をするファンドには注意した方がよいでしょう。
③ショートポジションによるリスク
ショートポジションというのは、株式投資においては「空売り」を意味し、自らの手元にない株式を証券会社から株式を借りて売ります。
例えば、今、1株1,000円の銘柄があるとしましょう。
これを空売りするためには、証券会社から1,000円で株式を借ります。売る際の株価は1,000円なので1,000円が手元に残るのですが、借りた株式はいずれ返さなければいけません。
その際に、改めて市場で株式を買い付けることになりますが、売った時よりも買い戻すときの株価が下がっていれば(例えば900円になっていた場合)、その差分を利益として手にすることができます。
このように、ショートポジションというのは、対象となる株式が「下がる」場合に収益を得られる投資方法です(一般的な株式の購入は、逆に「ロングポジション」と呼ばれており、これはもちろん株式が「上がる」場合に収益を得られます)。
さて、ショートポジションを取るという選択肢を持っていることは、投資の幅が広がります。
ロング(一般的な買い付け)一辺倒の場合、市場の株価が上がり続けなければ利益を得ることができません。リーマンショックのように株式市場全体が下火のときには、資金を引き揚げて耐えるしかないのです。
ですが、ショート(売り)ポジションを駆使することで、下げ相場であっても利益を得ることができます。
もっと言えば、ロングとショートを組み合わせることでリスクを分散することもできます。
このように、投資に柔軟性をもたらすショートポジションですが、一方で、実は法外なリスクをもたらすものでもあります。
例えば1株1,000円の株があったとして、この株をロングした(普通に買って保有した)場合、最悪のパターンはこの株式の価格が0円になってしまうことです。つまり、ロングにおける最大の損失は1株あたり1,000円ということになります。
一方、これをショートした(空売りした)場合はどうでしょうか。
株価が上がってしまい、1株3,000円になってしまえば、ショートした投資家のロスは2,000円になります。そしてさらに株価が上がってしまい、1株5,000円になってしまえば、ロス(損失)は4,000円に、、、と、ショートポジションにおける損失は青天井に上がってしまうのです。
ショートポジションというのは運用に柔軟性をもたらす一方で、無制限のリスクを内包しているということがお分かり頂けたかと思います。
ヘッジファンドに投資する際は、「ショートポジションを取っているのか」ということも合わせて確認しておくと良いでしょう。
④為替リスク
ヘッジファンドによっては、国内の株式だけではなく、海外の株式に投資している場合もあります。
その際には、投資の成果が為替の影響を受けてしまうというリスクがあります。
例えば、買っている株が50ドルから60ドルに上がっていたとしても、為替が120円/ドルから90円/ドルと円高に振れてしまった場合
・50ドル×120円/ドル=6,000円→60ドル×90円/ドル=5,400円
と円ベースでは資産を減らすことになってしまいます。
「為替ヘッジ」といって、為替の影響を受けないようにする逆取引をしている場合もありますが、それにも手数料が必要になるので決して簡単な話ではありません。
為替の動きを正確にコントロールできるヘッジファンドは存在しません(唯一の例外は過去にポンドを打ち負かしたと言われているジョージ・ソロスでしょうか...)
つまり、外貨で運用し為替の影響を受けるファンドというのは、ある程度経済情勢や運に身を任せているということになります。
為替リスクの有無については、出資の前にきちんと確認しておく必要があります。
⑤流動性のリスク
流動性のリスクとは、株や投資信託で運用する際にはあまり考える必要のない、ヘッジファンド特有のの1つですリスクです。
「流動性」とは、好きなタイミングで資金を出し入れできるかどうかということです。
代表的な投資商品である株や投資信託の場合、基本的に即日、もしくは翌日には売却し現金として手元に戻すことができます。これを非常に「流動性が高い」と言います
一方で、ヘッジファンドは、一般に出資や解約のタイミングが年に数回と制限されています。
この「解約できるまでにかかる期間」を「ロックアップ期間」と言いますが、長いヘッジファンドで1年間(1年に一度、解約や増資が可能)、短いヘッジファンドでも3ヶ月程度を求められます。
ヘッジファンドがロックアップ期間を設けているのは、投資家がこまめに資金を出し入れし、ファンドとして運用できる純資産が変動することで、投資戦略が崩れてしまうのを防ぐためです。
ヘッジファンドは通常、特定の会社(株式)に資金を投下し、投資先に何かしらの働きかけをすることで業績アップに貢献し、ひいては株価の向上を促します(この活動に積極的なファンド「アクティビスト(アクティブファンド)」と言います)。
この活動には、年単位の歳月を要することが一般的で、この為、数カ月単位で投資金額が動いてしまうと、投資戦略が立て辛くなってしまうのです。
ヘッジファンドに投資する際は、このロックアップ期間がどれくらいで設定されているのかを必ず確認する必要があります。
まとまった資産を預けるのですかが、仮にもそれが数年も引き出せないようなファンドの場合、何かあった際(緊急でお金が必要になったとき)に非常に困ることになります。
ヘッジファンドの中に即日解約できるようなものはまずありませんが、数カ月毎に出し入れできるようであれば比較的流動性が高いと言って良いでしょう。
ただ、大前提として先ほど説明したようなヘッジファンドの投資戦略にまつわる事情もあるので、投資する際は、数年間は付き合うという気持ちを持っておくことも大切です。
⑥出資自体の難しさ
ヘッジファンドは、出資すること自体がある程度難しいものでもあります。
特に個人がヘッジファンドに出資する場合、ハードルとなるのは主に以下の2点です。
- どのようにヘッジファンドを発見し(選び)、問い合わせするか
- 最低出資金額の高さ
ヘッジファンドは「私募」のファンドである以上、基本的にはファンドの営業員が地道にセールスをしている場合がほとんどで、これらの営業員と直接知り合うことが最も簡単で直接的な方法です。
知り合いにヘッジファンド関係者がいないという場合には、インターネットの問い合わせ窓口から直接応募をするということになります。
また、ヘッジファンドは株や投資信託のように数万円や数千円程度から気軽に始められるようなものでもありません。
最低出資金額はヘッジファンドによるので一概には言えませんが、低く設定されているファンドで最低1,000万円程度、高く設定されていると5,000万円や1億円という場合も少なくありません。
自分の運用資金で検討可能なのかどうか、直接確認をすると良いと思います。
まとめ
今回は、ヘッジファンドのリスクについて説明しました。
「リスク」と聞くと、と反射的に「危険で良くないもの」と考えている人もいるようですが、実際のところは一概に悪いものでもなく、うまく付き合ってコントロールしていくべきものです。
リスクの全くない投資はありえません。
様々な投資における本質的なリスクを理解し、それらと上手く付き合うことで、より適切に運用することができるようになります。
ファンドごとのリスクをきちんと見極め、ご自身にあったものを適切に選ぶようにしてください。