「ファンド」と聞くと日本ではどうしてもネガティブなイメージが先行しているようです。
一言にファンドと言っても、ヘッジファンド、PEファンド、ハゲタカファンド、企業再生ファンド、ベンチャーキャピタル(VC)、、、と色々な種類がありますが、どれもイメージは「なんか怖い」というようなものに落ち着いてしまっている印象です。
しかし、この「ファンド」に対する悪印象は、日本特有の妄想でしかありません。
事実、欧米では「ファンド」という存在は企業の成長をサポートする、「重要な助っ人」というイメージがメジャーなのです。
今回は、これから資金調達をしようと思いファンドの起用を考えている方や、逆に資産運用の投資先としてヘッジファンドを考えてる方などに向け、日本でファンドという言葉がネガティブに捉えられるようになっていった経緯を説明したいと思います。
ファンドの基本的な機能
「ファンド」というものの機能を一言で言えば、「資金調達」になります。
言い方を換えると、お金が必要な人の為に、投資家を集める存在なのです。
例えば、ベンチャーキャピタル(通称VC)というファンドを例にとりましょう。
とある革新的な技術を考えた人が、その技術を使ってビジネスをしたいと考えます。
しかし、オフィスを構えて、エンジニアを雇って、営業を雇って、ということをするには資金が必要で、それを自前で用意することが出来ません。
そこで、ベンチャーキャピタルという「ファンド」の登場です。
彼らは、この技術に賭けたいと思う投資家を何人も探し出し、彼らからお金を集めます。
この技術がうまくいき、投資家達の出資によって会社が成長して大きな収益を生めば、この収益を
- 投資を受けて稼いだ人(この会社の社長)
- お金を集めた人(ファンド)
- お金を出した人(投資家)
の3者で分けるのです。
仮にその会社の事業が上手くいかなかった場合は、「資金的な」損は主に投資家が、「労力と時間」の損は投資を受けた人とファンド会社が受けることになります。
日本におけるファンドと銀行
ファンドの主な機能である「資金調達」ですが、では、日本の様々な中小企業・大企業の資金調達需要を担ってきたのは、誰(何)でしょうか。
それは「銀行」です。
社債を発行にするにせよ、融資をするにせよ、形式は様々ありますが、企業が何かをする為にお金を必要とするとき(資金調達が必要なとき)に相談する相手は、ほとんど銀行でした。
特に高度経済成長期、日本の企業というのは"イケイケドンドン"状態でした。
新しい工場を作りたい、営業部隊を増やしたい、と企業はどんどん売上を伸ばし、規模を拡大し、その度に次々と資金調達が必要になります。
その際の、相談先は常に銀行です。銀行は、事業の将来性が明るければ資金を貸し付けますが、高度経済成長期の日本は、ほとんど全ての企業に可能性があり、「会社がお金を必要=銀行が貸してくれる」というイメージが定着したのです。
ですが、これは「ファンド」機能です。
日本の資金調達市場は、銀行というファンドの独占状態となっていました。
特に、株式を時価で発行することや、社債を発行することが難しい、中小企業の場合はこの傾向が顕著です。
彼らにとって、「資金を借りる先=銀行」です。
銀行の担当者と、中小企業の経営者が密接な関係にあるのは、このような背景があります。
こうした状況が長く続いたことにより、日本の企業というのは見ず知らずの「ファンド」などではなく、「銀行」に大きな信頼を寄せるようになりました。
銀行の機能の変化
21世紀に入り、小泉政権のもとで策定された「竹中プラン」が始動すると、この状況が崩れはじめます。
この竹中プランというのは、「バブル崩壊以降、経済復興の足かせとなってきた金融機関の不良債権を早急に処理しよう」というものでした。
これにより銀行の融資先は厳しく管理されるようになり、担保がないと貸し付けができない投資先が続出します。
銀行が、より保守的になることが求められたのです。
それまでは「小さくても将来性がある、思い切って資金を貸してみよう!」と積極的な融資をすることもあった銀行ですが、「より確実で、損をしにくいような企業」にしか融資できなくなりました。
結果、銀行による融資の規模・件数は縮小していきます。
資金調達先としてファンドの再評価
十分な担保を用意できない中小企業や、新興企業は銀行から借り入れることが難しくなりました。
ですが、このままでは、将来有望な企業が資金を調達できず、新しいビジネスが生まれるチャンスがなくなってしまいます。結果、経済自体がシュリンクしてしまっては大問題です。
ここで、銀行に変わる資金調達のパートナーとして「ファンド」が改めて評価されはじめます。
ファンドは、銀行とは別ルートで投資家を募り、企業に対して独自の判断基準をもって資金を貸し付けることができます。
あしもとの状態が良くないため銀行から借り入れることはできないが、資金やそれに伴う優れた施策があれば、しっかりと息を吹き返すことができる、という企業にとってこうしたファンドは救世主となるはずでした。
敵対的買収を主とするファンドの台頭
しかし、この企業の資金調達の過渡期にあったこの時期に、「敵対的買収」といって強引に株を買って企業をコントロールしようというファンドが、マスコミに頻繁に取りざたされてしまったのです。
代表的なのは、「村上ファンド」や「スティール・パートナーズ」でしょう。
村上ファンドは元官僚の村上世彰氏が立ち上げたファンドであり、阪神電気鉄道の株を買い集めたことで一躍有名になりました。
マスコミの煽りもあり、「会社乗っ取りとはけしからん!阪神タイガースはどうなるんだ!!」という意見を中心に、世間の注目を集めました。
スティール・パートナーズは、株式の全取得を目指してブルドックソースへのTOBをしたことで有名です。
こちらも、「会社を乗っ取るつもりだ」という猛烈な反発を受け、このやりとりをマスコミがおもしろがって連日取り上げていたのを覚えています。
資金調達のパートナーとして改めて「ファンド」の存在が知れ渡ってきたタイミングで、こういった、最も話題にしやすい「敵対的買収ファンド」を悪役としてマスコミがとりあげてしまったことが、日本でファンドという存在のイメージが悪くなってしまった最大の理由でしょう。
実際、ファンドにも色々な種類があり、銀行もその一つだというのは説明した通りですが、多くの人が思い浮かべるファンドは「強引に株式を取得しにかかるハゲタカファンド」が先行するようになってしまったのです。
「ファンド」を評価しすべき理由
日本の中小企業・大企業へリスクマネーを投じようとするファンドには色々な種類があります。
そのほとんどが、友好的に資金を投入し、出資先の会社と共に力を合わせて成長しようとするものです。出資した会社が成長し、利益を得られなければファンド側にもメリットはないのだから当然です。
悪質な意図を持って、会社をコントロールしようなどと考えているファンドは、実際のところ、ほとんどありません。
それどころか、いまの銀行の姿に失望し、もっと熱い投資をしたいという想いを持って、銀行からファンドへと転職していく人もたくさんいます。
本当に日本の経済を真剣に考える人達が、日々必死に企業のことや投資家のことをを考えているのが多くの「ファンド」の実態です。
調達する側にしても、投資をする側にしても、ファンドというのは心強い存在です。
「ファンド」「ヘッジファンド」「PEファンド」「事業再生ファンド」といった単語を聞いた時にネガティブなイメージをもつ人が多いということは、日本経済という観点から考えても非常に勿体無いことだと思います。
皆さんがファンドの実態を正しく理解し、より適切な認識が広まることを願っています。